【その5】

鉄道労働者の歌、列車事故の歌


 西部開拓のスピードに拍車をかけたのが鉄道網の発達である。アメリ カ大陸の横断鉄道が完成したのは1869年、元号でいうと明治2年のことだ。この大工事は、東からユニオン・パシフィック鉄道、西 からセントラル・パシフィック鉄道が進め、両社の競争がいろいろな小説、映画にも描かれている。

 フォークソングには、鉄道に関わるものも数多い。日本人がよく知っている曲は「500マイル」(500 Miles)という曲だろう。歌詞の一部を紹介しよう。

If you miss the train I’m on,
You will know that I am gone
You can hear the whistle blow
A hundred miles.

あなたが、私の乗った汽車に乗り遅れたら
私が旅立ってしまったことを知るでしょう
あなたができることといえば
100マイルも離れたところで鳴る汽笛を聞くことだけ

 1938年、ジョージア州に生まれたHedy Westという女性シンガー・ソングライターの手になる曲だが、PP&M,Brothers Four,Kingston Trioなど数多くのフォークシンガーたちによって歌われている。

鉄道にまつわる歌は、大きく3種類に分かれる。

一つ目は、鉄道敷設に関わる労働者が歌った労働歌。

 「線路は続くよどこまでも」(I've Been Working on the Railroad)という、NHKの「みんなの歌」にもなった曲が代表的なものだ。

  また、”Drill Ye Tarriers, Drill”という歌は、枕木に穴を空ける線路抗夫の歌だ。Rooftop Singers, The Weaversに参加していた、Erik Daringがその前結成していたバンドがTarriersという名前だが、これはこの曲名からとったものだ。余談になるが、このバンドには、後に映画俳 優として「暗くなるまで待って」で、可憐なオードリー・ヘップバーンを恐怖に陥れる悪漢を演じたアラン・アーキンも参加していた。

 2つ目が、列車の乗客の立場で歌ったものだ。これには「500マイル」のような、故郷を遠く離れて、恋人、あるいは我が家を懐かしむ歌、逆に、故郷や恋 人の元に帰る喜びを歌った歌がある。

 フォークソングの父の一人とされるWoody Guthrieが各地を放浪する中で、古いゴスペルソングから採譜した”This Train”という曲は、列車内のさまざまな乗客(賭博師、喫煙者、詐欺師、ハスラー)などを歌っているが、リフレインの歌詞は次のようなものだ。

This train is bound for glory, this train.
This train is bound for glory, this train.
This train is bound for glory,
Don't carry nothing but the righteous and the holy.
This train is bound for glory, this train.

この列車は栄光に向かって走る
高潔な人と神様以外は乗せないでくれ
この列車は栄光に向かって走る……

 後の歌詞では、「喫煙者は絶対に乗せない」「賭博師は絶対に乗せな い」「ハスラーは絶対に乗せない」などと繰り返される。こういったところが、ゴスペルを元にしたフォークソングのおもしろいところだ。

 かつて深夜テレビでWoody Guthrieの伝記映画を観たことがある。邦題は「ウディ・ガスリー/わが心のふるさと」(1976 年制作)だが、原題は、”Bound For Glory”で、この曲がテーマ曲として使われていた。

 またまた余談だが、この映画でWoody役を演じたのが、深夜テレビの連続ドラマ「燃えよ!カンフー」で隠れファンを獲得したデビッド・キャラダイン だった!彼はその後「キル・ビル」では、主演のユマ・サーマンと戦う悪の親玉、ビルを演っていた。

 この写真でWoodyは汽車の屋根に乗っているが、大恐慌後、職を求めて各地をさまよう放浪者が大量に現れた。彼らは旅費を節約するために屋根に乗った り、貨車に隠れたりの無賃乗車で移動した。

  彼らのことを、英語で”Hobo”と呼んだ。Woodyも愛唱していた歌の一つが”Hobo’s Lullaby"という曲だ。日本名では「さすらい人の子守歌」とつけられていた。この日本語題名をそのままパクったのが、「はしだのりひことシューベル ツ」の曲だが、これは歌詞もメロディも原曲とはまったく関係のない別物だ。

 Hoboを調べてみると、語源には諸説あるようだが、一説には、大陸横断鉄道の建設労働者の日本人が使っていた「方 々に行く」という言葉が語源だともいう。聞くところによると、ウェブスターの辞書にもこの説が載っているらしい(自分で確かめたことはない)。1890年 ごろに登場した言葉のようだから、あながち嘘ではないかもしれない。

 この無賃乗車のHoboたちと、それを阻止しようとする車掌の攻防を描いた映画が、リー・マービン主演の 「北国の帝王」(Emperor of the North Pole)というもの。サム・ペキンパーが企画したということで、とても楽しめた映画だった。

 また、僕の好きな歌の一つに“City Of New Orleans”という曲がある。これはシカゴとニューオリンズを南北に結ぶ、イリノイ・セントラル鉄道を走る列車名だが、シカゴ、カンカキー、テネシー 州メンフィスなどの地名が登場する仮想旅行を楽しめる曲だ。

 サビの部分の”Good morning America, how are you”のメロディがなんとも心地良い。歌の最後では、”Good evening America, how are you”と変わり、旅の終わりをしみじみと感じさせてくれる。

  もう一つ、”Buddy Better Get On Down The Line”というKingston Trioの初期の歌もお気に入りだ。歌詞の中に、”Here comes ninety-seven”と出てくる。これを調べてみると、1897年に登場した、当時の最新鋭機関車のことだった。当時の鉄道各社は、列車のスピード を競っていたのだという。この競争の結果起きたのが1903年10月にバージニア州で起きた 「97号」の脱線事故だった。

 この歌と事故は無関係だが、歌詞を読み込んで調べていくと、思いもかけない(大して役に立たない)知識を得ることができる。

3つ目は、刑務所の外を走る列車の歌だが、また別の回に書くことにする

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いや~あ、フォークソングって、本当におもしろいですねぇ!……(⑥へ続く)